基礎編

取戻権・別除権・財団債権

このページで学ぶこと

端的にいうと:破産手続の分配は「①そもそも財団に入らないもの → ②担保で抜けるもの → ③手続費用等の先取り → ④優先順位どおりの配当」の4層構造です。依頼者・債権者の「自分はどの層か」を最初に判定します。

取戻権(62条)

破産財団に属さない財産を、その権利者が財団から取り戻す権利。破産手続は破産者の財産だけを清算するという当然の帰結です。

別除権(2条9項・65条)

破産財団所属財産の上の担保物権(特別の先取特権・質権・抵当権)をもつ債権者は、破産手続によらないで権利を行使できます。

  1. 手続外の実行:抵当権者は競売を申し立て、優先弁済を受けられる(65条1項)
  2. 不足額責任主義(108条1項):別除権の行使によって弁済を受けられない不足額についてのみ、破産債権者として配当に参加できる
  3. 管財人との任意売却交渉:実務では競売より任意売却が高値になるため、管財人が担保権者と協議して任意売却し、担保権者への弁済と財団組入れ(売却代金の数%)を行う処理が一般的

⚠️ 実務の落とし穴:住宅ローン付き自宅は「別除権の対象+オーバーローンなら財団に価値なし」という二重の構造で処理されます。依頼者への説明では「破産手続が家を取り上げる」のではなく「ローン債権者が抵当権を実行する(または任意売却)」という正確な構造で説明しないと、手続と退去時期の見通しを誤ります。

財団債権(148条以下)

破産手続によらず、破産債権に先立って随時弁済を受けられる債権(2条7項・151条)。手続追行のコストと、政策的に保護すべき債権です。

主なもの(148条1項)

債権
1号・2号裁判費用・管財人の報酬等の手続費用
3号租税等の請求権(開始前の原因に基づくもののうち、納期限未到来または納期限から1年以内のもの)
4号財団の管理・換価・配当に関する費用
7号管財人が双方未履行契約を履行選択した場合の相手方の請求権
8号開始後の財団の不当利得

労働債権の特例(149条):破産手続開始前3か月間の給料と、退職手当のうち退職前3か月分相当額は財団債権。それ以外の労働債権も優先的破産債権として保護されます。

配当の優先順位(全体構造)

取戻権 ──「財団の外」(そもそも分配の原資にならない)
別除権 ──「担保目的物から手続外で回収」(不足額のみ下の列に参加)
─────────── 破産財団 ───────────
① 財団債権(148条〜)……随時弁済
② 優先的破産債権(98条)……租税(財団債権とならない部分)・労働債権等
③ 一般の破産債権
④ 劣後的破産債権(99条)……開始後の利息・遅延損害金等

📋 実務チェックリスト

確認問題

【○×】抵当権者は、破産手続開始決定後は、破産手続によらなければ抵当権を実行することができない。

答え:× 抵当権は別除権であり、破産手続によらないで行使できます(65条1項)。手続外で競売を申し立て、優先弁済を受けられます。

【○×】別除権者は、被担保債権の全額について、破産債権者として配当に参加することができる。

答え:× 別除権の行使によって弁済を受けることができない不足額についてのみ配当に参加できます(不足額責任主義・108条1項)。

【事例】従業員Aの未払給料は、開始決定前5か月分(月25万円・計125万円)である。手続内での扱いを整理せよ。

解答例 開始前3か月間の給料75万円は財団債権(149条1項)として随時弁済の対象となり、配当に先立って支払を受けられる。残る2か月分50万円は優先的破産債権(98条1項、民法306条2号・308条)として、一般の破産債権に優先して配当を受ける。財団の規模によっては財団債権部分しか支払われないこともあるため、未払賃金立替払制度(8割・上限あり)の利用を並行して案内するのが実務対応である。

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