このページで学ぶこと
- 個人再生の2類型(小規模個人再生・給与所得者等再生)の骨格を学びます
- 最低弁済額の計算(負債基準・清算価値保障・可処分所得基準)を学びます
- ゴール:破産と再生の分水嶺(住宅・資格・免責不許可事由・債権者の同意見込み)で手続選択を説明できるようになる
端的にいうと:個人再生は「財産を手放さず、圧縮した元本を3〜5年で払い切る」手続です。住宅を残せること、免責不許可事由の制度がないこと——この2点が破産に対する決定的な強みです。
個人再生の骨格
民事再生法の特則(221条以下)として設けられた、継続的収入のある個人向けの簡易な再建型手続です。
| 小規模個人再生(221条) | 給与所得者等再生(239条) | |
|---|---|---|
| 利用条件 | 将来反復した収入の見込み+無担保債務5,000万円以下 | 左に加え、給与等の変動の幅が小さい収入 |
| 弁済額 | 負債基準額と清算価値の高い方 | 左に加え可処分所得の2年分との比較で最も高い額 |
| 債権者の同意 | 議決(消極的同意——反対が頭数の半数・債権額の2分の1を超えないこと) | 不要 |
| 再度の利用制限等 | なし | 過去7年内の免責等で制限(個人再生側の制限) |
負債基準額(231条2項参照・小規模個人再生の最低弁済額):
- 負債100万円未満→全額/100万〜500万円→100万円/500万〜1,500万円→5分の1/1,500万〜3,000万円→300万円/3,000万〜5,000万円→10分の1
清算価値保障原則:弁済総額は、破産した場合の配当額(清算価値)以上でなければなりません。財産が多いほど弁済額が上がる——「財産を残せる」ことの対価です。
住宅資金特別条項(196条以下)
住宅ローンを約定どおり(またはリスケして)払い続け、住宅ローン以外の債務だけを圧縮することで、自宅を維持する制度です。
- 対象:住宅資金貸付債権(自宅の建設・購入・改良資金で、住宅に抵当権が設定されているもの)
- 住宅ローン自体は1円も減りません——誤解の多いポイント
- 自宅に住宅ローン以外の担保権(事業融資の抵当権等)が付いていると利用できない(198条1項ただし書)
- 税滞納による差押登記がある場合も支障になるため、登記の事前確認は必須
破産との選択の分水嶺
| 考慮要素 | 破産が有利 | 再生が有利 |
|---|---|---|
| 弁済原資 | ない(最大の分水嶺) | 月3〜5万円程度を3〜5年継続できる |
| 住宅 | 手放してよい/オーバーローン | 残したい(住宅資金特別条項) |
| 資格制限 | 影響のない職業 | 警備員・保険募集人等(再生には資格制限がない) |
| 免責不許可事由 | 軽微(裁量免責見込み) | 顕著(再生には免責不許可の制度がない)——ギャンブル原因でも認可される |
| 財産 | 少ない | 多い(破産だと失うが、再生なら清算価値分を弁済して維持) |
| 債権者の構成 | — | 小規模個人再生では大口債権者の反対で否決リスク(その場合は給与所得者等再生や破産へ) |
⚠️ 実務の落とし穴:再生は「認可されて終わり」ではなく3〜5年の履行が本体です。家計に余力のない再生計画は途中で破綻し(その場合、再生計画の取消し・破産への移行や、やむを得ない事由によるハードシップ免責〔235条〕の検討になる)、依頼者を二度苦しめます。弁済可能性は保守的に見積もります。
確認問題
【○×】個人再生には免責不許可事由の制度がないため、債務の原因がギャンブルであっても再生計画の認可を受けることができる。
答え:○ 個人再生に252条のような不許可事由の制度はありません。浪費・ギャンブル原因の債務でも、収入・弁済可能性等の要件を満たせば認可されます。破産で免責に強い不安がある事案の受け皿になります。
【○×】住宅資金特別条項を利用すれば、住宅ローンの元本も他の債務と同様に5分の1程度まで圧縮される。
答え:× 住宅ローンは減額されません。約定(またはリスケジュール)どおり支払い続けることと引き換えに、抵当権の実行を防いで自宅を維持する制度です。
【事例】債務総額1,200万円(住宅ローン以外)、保有財産の清算価値350万円、自宅(住宅ローン残2,800万円・時価2,500万円)。小規模個人再生での弁済額と、住宅維持の可否を検討せよ。
解答例 負債基準額は1,200万円の5分の1=240万円だが、清算価値350万円がこれを上回るため、最低弁済額は350万円(清算価値保障)。3年弁済で月約9.7万円、5年に伸長(特別の事情)して月約5.8万円となり、住宅ローンの約定弁済と並行して支払えるかが認可の現実的なハードルになる。自宅はオーバーローンであり清算価値に影響しない。住宅資金特別条項の利用要件(住宅ローン以外の担保権の不存在等)を登記で確認のうえ、家計の弁済余力を保守的に検証して手続を選択する。