このページで学ぶこと
- 法人破産の初動で決めるべきこと(事業停止日=Xデーの設計)を学びます
- 従業員の解雇・未払賃金の処理(立替払制度)を学びます
- ゴール:受任から申立てまでの段取り表を自分で組めるようになる
端的にいうと:法人破産は「いつ事業を止め、誰にどの順番で知らせるか」の情報管理と段取りの仕事です。準備が漏れたまま破産が知れ渡ると、債権者が事務所・工場に押しかけ、資産と帳簿が散逸し、手続全体が壊れます。
初動の判断事項
1. 事業停止日(Xデー)の設計
受任後、申立てまでの準備期間と、事業をいつ止めるかを最初に設計します。考慮要素:
- 資金繰りの限界——従業員給与・公共料金の支払原資が尽きる日から逆算
- 申立費用の確保——法人の管財予納金(少額管財でも法人は20万円〜、負債規模により増額)と弁護士費用を、資金が残っているうちに確保する
- 混乱の回避——給料日・支払日の直前直後、取引先への影響(仕掛かり案件の処理)
- 財産散逸の防止——停止を知った債権者の引き揚げ・相殺・現場の混乱を防ぐため、停止と受任通知発送は同時・一斉が原則
⚠️ 実務の落とし穴:事業停止が事実上の支払停止(15条2項)にあたり、以後の弁済は否認リスク(162条)を帯びます。「止めた後に、世話になった取引先にだけ払う」は典型的な偏頗弁済であり、代表者の希望があっても止めなければなりません。
2. 従業員対応
- 解雇——事業停止日に全員解雇が原則(解雇予告手当〔労基法20条〕の原資を残せるかが Xデー設計の制約になる)
- 未払賃金立替払制度(賃金の支払の確保等に関する法律)——独立行政法人労働者健康安全機構が、未払賃金の8割(年齢による上限あり)を立替払い。破産手続開始決定等が要件なので、申立てを速やかに行うことが従業員保護に直結する
- 離職票・源泉徴収票の交付、社会保険の資格喪失手続——従業員の失業給付受給に必要。総務担当者の協力を停止前に確保しておく
- 給料債権の優遇:開始前3か月間の給料は財団債権(149条1項)、それ以外も優先的破産債権(98条1項・民法306条2号)
3. 資産・帳簿の保全
- 現金・預金通帳・手形小切手帳・実印・契約書類・会計帳簿を代理人が事実上管理下に置く
- 在庫・機械等は施錠・リスト化し、写真で現況を記録(管財人への引き継ぎ資料)
- リース物件・所有権留保物件は勝手に返さない(別除権の処理は管財人の職分。ただし保管コストとの兼ね合いで申立前の返還が合理的な場合は記録を残して行う)
- データ(会計ソフト・メール)のバックアップ——帳簿の散逸は説明義務違反・否認調査の障害になる
4. 取引先・債権者への対応
- 受任通知は事業停止と同時に一斉発送(法人債権者には貸金業法の取立規制はないが、窓口一本化の機能は同じ)
- 買掛先からの動産引き揚げ要求——所有権留保等の権原のない引き揚げには応じない。応じると否認対象・代理人の責任問題にもなりうる
- 継続中の受注・仕掛かり——完成間近の案件の扱い(完成させて回収するか)は資金繰りと相談のうえ決定
📋 実務チェックリスト(法人破産の初動)
- 資金繰り表の作成とXデーの設定
- 予納金・弁護士費用の確保(資金が尽きる前に)
- 解雇予告手当・最終給与の支払可否の判定
- 従業員説明(解雇・立替払制度・離職票)の段取り
- 通帳・印鑑・帳簿・契約書の確保
- 在庫・什器・車両のリスト化と施錠・現況撮影
- リース・所有権留保物件の一覧化
- 受任通知の一斉発送準備(停止と同時)
- 賃借物件(事務所・工場)の明渡し方針と原状回復費用の見積り
- 代表者個人の破産申立ての要否判断(連帯保証の確認)
確認問題
【○×】法人の事業停止後、長年世話になった仕入先にだけ買掛金を支払うことは、代表者の意向であれば差し支えない。
答え:× 事業停止は支払停止(15条2項)にあたり、以後の特定債権者への弁済は偏頗行為否認(162条1項1号イ)の対象となります。管財人による否認で仕入先が返還を求められ、かえって迷惑をかける結果になることを代表者に説明して止めます。
【○×】未払賃金立替払制度により、従業員は未払賃金の全額の立替払を受けることができる。
答え:× 立替払の対象は未払賃金の8割(年齢区分による上限額あり)です。また対象は退職日の6か月前以降の賃金と退職手当であり、賞与は対象外です。
【事例】運送会社(従業員8名)の代表者から「資金繰りが今月末で限界」と相談を受けた。今月20日が給料日である。初動の段取りを示せ。
解答例 ①直ちに資金繰りを精査し、20日の給料・解雇予告手当・予納金/弁護士費用の支払可能性を確認する。②給料支払後の資金残を予納金等に確保できるなら、給料支払直後を事業停止日(Xデー)に設定し、全従業員を解雇、同日に受任通知を一斉発送する。③解雇予告手当が払えない場合は30日前予告との比較・立替払制度(未払賃金・退職手当の8割)の説明で補う。④停止前に通帳・帳簿・車両キーを確保し、車両(リース・ローンの権利関係)をリスト化する。⑤従業員の離職票発行・社会保険手続の担当者を確保し、速やかな申立て(立替払の前提となる開始決定の早期取得)を目指す。