このページで学ぶこと
- 法人の破産手続開始原因(支払不能・債務超過)と疎明方法を学びます
- 法人申立て特有の書類(決算書・税務申告書・清算貸借対照表等)を学びます
- ゴール:管財人への引き継ぎを見据えた「調査済み」の申立書を作れるようになる
端的にいうと:法人の申立書は管財人への引き継ぎ書です。管財人が初日から換価・回収に動ける程度に、資産・負債・契約関係が整理されていることが少額管財運用の前提です。
開始原因
支払不能(15条)と債務超過(16条)
| 開始原因 | 内容 | 適用 |
|---|---|---|
| 支払不能 | 弁済能力の欠乏により、弁済期にある債務を一般的かつ継続的に弁済できない客観的状態(2条11項) | 自然人・法人共通(15条1項) |
| 支払停止 | 支払不能を外部に表示する行為(事業停止・受任通知等)。支払不能が推定される(15条2項) | 同上 |
| 債務超過 | 債務をその財産をもって完済できない状態 | 法人のみ追加の開始原因(16条1項) |
実務の申立てでは、資金繰りの破綻(手形不渡り・買掛金/給与の支払不能)と債務超過の双方を、資金繰り表・清算貸借対照表で疎明するのが通常です。
申立権者と法人内部の手続
- 申立権者:債権者・債務者(18条)、法人については理事・取締役等にも申立権(19条)
- 取締役会設置会社では、会社としての申立てには取締役会決議を経るのが原則。決議が得られない場合(取締役の対立・所在不明)には、取締役個人が申立権者となる準自己破産(19条1項2号・2項)による。準自己破産では開始原因の疎明が必要(同条3項)
- 株主総会決議は不要(破産申立ては業務執行の範疇)
申立書類(自然人との違いを中心に)
| 書類 | 内容・注意点 |
|---|---|
| 商業登記事項証明書 | 現在事項でなく履歴事項全部証明書 |
| 定款 | — |
| 取締役会議事録または取締役の同意書 | 申立ての意思決定の証明 |
| 決算書類(直近2〜3期)・税務申告書 | 粉飾があれば申立書で注記 |
| 清算貸借対照表 | 帳簿価額ではなく処分価額ベースで作成し債務超過を疎明 |
| 債権者一覧表 | 金融機関・買掛先・リース・未払賃金・公租公課・保証債務。労働債権は従業員ごとに |
| 財産目録 | 売掛金(相手先・金額・回収可能性)、在庫(保管場所・評価)、不動産、車両、敷金保証金、リース物件の区別 |
| 賃借物件・係争関係の一覧 | 明渡し・原状回復、係属中の訴訟は中断(44条)するため一覧化 |
| 従業員関係 | 賃金台帳・解雇通知・社会保険手続の状況 |
売掛金の処理
申立前に回収できる売掛金は回収し(使途は手続費用・労務費等に限定して記録)、未回収分は請求書・契約書とセットで一覧化して管財人に引き継ぎます。回収可能性の評価(相手方の資力・反対債権による相殺見込み)まで注記してあると、管財人の初動が速くなります。
⚠️ 実務の落とし穴:申立直前期の会計帳簿の空白(記帳が数か月止まっている)は頻出です。最低限、通帳・請求書・領収書の原資料を時系列で整理し、空白期間の資金の動きを説明できる状態にして引き継ぎます。帳簿の不備は代表者個人の免責(252条1項6号)にも影響します。
予納金と申立先
- 法人の予納金は負債総額・事件の複雑さに応じて増額される(東京の少額管財運用で法人20万円〜。通常管財では負債規模別の基準額)
- 法人と代表者の同時申立てでは予納金も双方分が必要(合算減額の運用がある庁も)
- 管轄:法人の主たる営業所所在地(5条1項・2項)。代表者個人との関連管轄(5条3項以下)
📋 実務チェックリスト(法人申立書類)
- 履歴事項全部証明書・定款・申立ての意思決定書面
- 直近2〜3期の決算書・税務申告書(控え)
- 清算貸借対照表(処分価額ベース)と資金繰り表
- 債権者一覧(労働債権・公租公課・保証債務・リースを網羅)
- 売掛金一覧(証憑添付・回収可能性注記)
- 在庫・什器・車両のリストと現況写真
- 賃借物件の一覧と明渡し・原状回復の方針
- 係属中の訴訟・保全・執行の一覧
- 従業員の未払賃金額の確定資料(賃金台帳)
- 帳簿空白期間の原資料整理
確認問題
【○×】法人については、支払不能に至っていなくても、債務超過であれば破産手続開始の原因となる。
答え:○ 16条1項。債務超過は法人特有の開始原因です(合名会社・合資会社の例外あり——同条2項)。
【○×】取締役の一部が破産申立てに反対している場合、会社としての自己破産申立てはできず、破産手続を開始する方法はない。
答え:× 取締役会決議が成立しなくても、取締役個人に申立権があり(19条1項2号)、いわゆる準自己破産の申立てができます。この場合は破産手続開始原因の疎明が必要です(同条3項)。
【事例】建設業の法人破産で、完成済み・未請求の工事代金(請負代金債権)500万円がある。申立準備としてどう扱うか。
解答例 請負代金債権は重要な財団財産であり、①契約書・注文書・完成確認資料を整理して請求可能な状態にし、②申立前に請求・回収するか、管財人の回収に委ねるかを資金繰り(予納金・労務費の要否)から判断する。申立前に回収する場合は使途を手続費用等に限定して記録を残す。なお注文者側から瑕疵・未完成部分を理由とする減額・相殺の主張が見込まれる場合はその経緯(協議記録)も整理し、回収可能性の評価とともに管財人に引き継ぐ。