このページで学ぶこと
- 初回相談で聴取すべき事項と、その聴取結果が後の手続に与える影響を学びます
- 受任前に必ず行う利益相反チェックと、受任を避けるべき(または慎重に判断すべき)類型を学びます
- ゴール:受任判断のための情報収集を一回の相談で漏れなく行えるようになる
端的にいうと:破産事件の成否は受任時にほぼ決まります。聴き漏らした財産は申立後に管財人が発見し、説明していなかった免責不許可事由は審尋で露見します。最初に「全部」聴くことが、依頼者を守る唯一の方法です。
聴取事項の体系
債務に関する聴取
- 債権者の完全な一覧——貸金業者・銀行だけでなく、個人借入れ(親族・友人・勤務先)、保証債務、税金・社会保険料、養育費・婚姻費用、家賃・携帯・水道光熱費の滞納まで
- 各債務の発生時期と使途——免責不許可事由(252条1項)の有無の一次スクリーニング。浪費・ギャンブル(4号)、換金行為、詐術による借入れ(5号)の端緒を把握する
- 直近の弁済状況——特定の債権者にだけ弁済していないか(偏頗弁済)。申立後に否認(162条)や免責不許可事由(252条1項3号)の問題となる
⚠️ 実務の落とし穴:依頼者は「親には返したい」「勤務先からの借入れは言いたくない」と考えがちです。債権者の一部除外は許されないこと(債権者平等)、隠して申し立てれば免責不許可(252条1項8号・虚偽の債権者名簿提出)のリスクがあることを、受任時に明確に説明します。
財産に関する聴取
- 不動産(共有持分・過去2年内の処分歴を含む)
- 預貯金口座(使っていない口座も全部)、現金
- 保険(解約返戻金見込額——契約者貸付の有無も)
- 自動車・バイク(初度登録年・ローンの残債と所有権留保の有無)
- 退職金見込額(勤続年数が長い場合は要注意——8分の1相当額が財産と扱われる運用)
- 過去2年内の財産処分(不動産・車の名義変更、保険解約、まとまった金銭の贈与)——否認対象行為(160条以下)のスクリーニング
家計・収入に関する聴取
- 世帯収入と家計の状況(同居人の収入を含む——家計全体の収支表の作成は申立ての必須資料)
- 今後の収入見込み(免責後の経済的更生の見通し)
利益相反チェック
受任前に必ず確認します(弁護士法25条、弁護士職務基本規程27条・28条)。
- 債権者の中に既存顧客・顧問先がいないか——債権者一覧を入手した時点で全件照合する
- 夫婦・親子で同時に債務整理する場合の相互保証——一方が他方の保証人である場合、利害が対立しうる(同時受任の可否を慎重に判断し、対立が顕在化したら一方を辞任)
- 法人と代表者の同時受任——原則として同時申立てが合理的だが、法人・代表者間の貸借や利益相反取引があると対立しうる
受任判断 — 慎重に判断すべき類型
| 類型 | リスク | 対応 |
|---|---|---|
| 財産隠匿の意図が窺われる | 免責不許可(252条1項1号)・代理人の信用毀損 | 全財産開示が免責の前提であることを説明。納得しなければ受任しない |
| 直近の大口借入れ・換金行為 | 詐術借入れ(5号)・否認 | 借入れ時期と使途を精査し、管財事件化を前提に見通しを説明 |
| 債務の大半が非免責債権 | 破産しても解決しない | 分納交渉等の代替手段を提示 |
| 申立費用も用意できない | 着手金・予納金の確保不能 | 法テラス(民事法律扶助)の利用、積立による準備期間の設定 |
費用の定め方
- 着手金は分割積立とする場合、積立期間中の家計管理がそのまま申立資料になる(家計収支表の練習を兼ねる)
- 管財事件の見込みがある場合は、引継予納金(東京地裁の少額管財で20万円〜)の準備も受任時に説明する
- 法テラス利用の場合の償還と、管財予納金は扶助の対象外である点(立替制度の地域運用を確認)
📋 実務チェックリスト(受任時)
- 債権者一覧の聴取(個人・勤務先・税金・養育費を明示的に質問)
- 利益相反チェック(債権者全件を事務所の顧客名簿と照合)
- 過去2年の財産処分・偏頗弁済の有無
- 免責不許可事由の端緒(使途:ギャンブル・浪費・投資・換金行為)
- 保険・退職金・過払金など「本人が財産と思っていない財産」
- 資格制限の説明(職業への影響)
- 非免責債権の説明(税・養育費・罰金は残る)
- 費用(着手金・実費・予納金)と積立計画の合意
- 受任後の禁止事項の説明(新たな借入れ・特定債権者への弁済・財産処分)
確認問題
【○×】依頼者が「親族からの借入れは債権者名簿に載せたくない」と希望する場合、少額であれば応じてよい。
答え:× 債権者名簿には全債権者を記載しなければならず、虚偽の名簿提出は免責不許可事由です(252条1項8号)。親族には別途任意に弁済したいという希望は、免責後の任意弁済(253条が禁じるのは「責任」の免除であり任意の弁済は妨げない)として整理して説明します。
【○×】受任後、依頼者が特定の債権者にだけ弁済を続けることは、後の手続に影響しない。
答え:× 支払不能後の偏頗弁済は否認対象(162条1項)となりうるほか、「特定の債権者に特別の利益を与える目的」での担保供与・弁済は免責不許可事由(252条1項3号)にもあたりえます。受任時に明確に禁止事項として説明すべきです。
【事例】相談者の債権者一覧に、事務所の顧問先である信販会社が含まれていた。受任できるか。
解答例 顧問先が債権者である事件の受任は、弁護士職務基本規程28条2号(依頼者の利益と他の依頼者の利益が相反する事件)に関わる。顧問契約の内容・継続性、当該債権の規模等を踏まえ、双方の同意を得られない限り受任を控えるのが原則的対応である。破産申立ては全債権者を相手にする手続であるため、債権者側との利益相反は見落とされやすく、債権者一覧入手時点での全件照合を事務処理として定型化しておくべきである。