応用編(実務深掘り)

法律相談と受任判断

このページで扱うこと

受任時の判断で実際に紛れやすい論点——「親には返してから破産したい」「ボーナスが出てから申し立てたい」「この債権者だけは外したい」——への法的に正確な応答を整理します。いずれも安易に応じると、否認・免責不許可・懲戒リスクに直結します。

端的にいうと:依頼者の「人情に沿った希望」の多くは債権者平等原則と衝突します。代理人の仕事は希望を拒絶することではなく、適法な代替ルートに乗せ替えることです。

論点1 — 「親族にだけ先に返したい」

法的整理

受任後(≒支払不能後)の親族への弁済は、

実務対応

  1. 受任前にすでにされた弁済 → 時期・金額を正確に聴取し、申立書で自発的に開示する(隠すと8号・虚偽陳述のリスク。開示していれば、管財人の否認権行使の判断に委ねる形で依頼者の免責への影響を最小化できる)
  2. これからの弁済 → 明確に止める。免責確定後の任意弁済は妨げられない(免責は債務を自然債務化するにとどまる)ことを代替案として示す
  3. 親族が保証人になっている場合 → 弁済ではなく、保証人への影響(一括請求)を事前に説明し、保証人自身の債務整理の要否を検討する

論点2 — 申立時期の戦略

退職金・ボーナス・過払金の回収時期

給与差押えを受けている場合

差押えが先行している場合、破産手続開始決定により強制執行は失効します(42条2項)。同時廃止見込みでも、開始決定までは差押えが続くため、申立てを急ぐ実益が大きい類型です。

⚠️ 実務の落とし穴:「積立が完了してから」を機械的に適用すると、差押え・給与天引きで家計が崩壊し、新たな借入れ(免責不許可リスク)に追い込むことがあります。申立てを急ぐべき事案かの見極めが受任時の最重要判断です。

論点3 — 「この債権者だけ外したい」への応答

任意整理であれば対象債権者の選択は可能です。しかし破産は全債権者を拘束する手続であり、除外はできません。依頼者が除外を強く希望する場面別の対応:

希望の理由応答
勤務先借入れ(解雇が怖い)借入れを理由とする解雇は客観的合理的理由を欠き許されないのが原則であることを説明。給与天引き弁済は偏頗弁済になるため停止が必要
保証人付き債務(保証人に迷惑をかけたくない)除外しても保証人への請求は止まらない。保証人と協議し、保証人側の整理も含めて設計
携帯電話・家賃(生活インフラ維持)滞納がなければ債権者ではない。滞納分を「除外」することはできないが、通信・賃貸借契約の継続自体は原則可能であることを説明

論点4 — 法人代表者からの相談で法人を放置する選択

代表者個人のみ破産させ、法人を「休眠」のまま放置する処理は、税務申告・債権者対応が残り続けるため原則として避けるべきですが、法人に見るべき財産がなく債権者も金融機関のみの場合、費用対効果から代表者のみ申し立てる実務も存在します。この判断は「法人破産の受任と初動」で詳述します。

確認問題

【○×】支払不能後に債務者が親族に弁済した場合、親族が債務者の支払不能を知らなかったことの立証責任は管財人側が負う。

答え:× 偏頗行為否認では受益者の悪意(支払不能等の知情)が要件ですが、受益者が内部者である場合には悪意が推定され、親族側が善意の立証責任を負います(162条1項1号・2項)。

【○×】免責許可決定が確定した後に、破産者が親族の債務を任意に弁済することは許されない。

答え:× 免責は債務の「責任」を消滅させる(訴求・執行ができなくなる)にとどまり、任意の弁済は妨げられません。「親には返したい」という希望はここで実現するよう案内するのが実務対応です。

【事例】依頼者(勤続25年)の退職金見込額は400万円。同時廃止での申立ては可能か(東京地裁運用前提)。

解答例 退職金見込額の8分の1=50万円が財産として評価され、20万円を超えるため原則として管財事件となる。同時廃止に固執するのではなく、管財事件を前提に、退職金の8分の1相当額についての自由財産拡張(99万円の枠内)または相当額の積立て・組み入れによる処理を見込んで方針を立てる。なお実際に退職するわけではないため、組み入れ原資の準備方法(分割積立等)を管財人と協議することになる。

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