このページで学ぶこと
- 非免責債権の各類型(253条1項各号)を学びます
- 実務で特に重要な税金・養育費・「悪意/重過失」の不法行為債権の処理を学びます
- ゴール:免責を得ても残る債務を受任時に特定し、その処理方針まで含めて説明できるようになる
端的にいうと:免責は万能ではありません。税金・養育費・故意の加害は破産しても消えない——この3つを受任時に言えるかどうかが、後日の「聞いていない」紛議を防ぎます。
非免責債権の一覧(253条1項各号)
| 号 | 債権 | 実務上の注意 |
|---|---|---|
| 1号 | 租税等の請求権 | 国税・地方税・社会保険料。最頻出。滞納処分は免責と無関係に進む |
| 2号 | 悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権 | 「悪意」=単なる故意を超える積極的な害意と解されている |
| 3号 | 故意または重過失による人の生命・身体侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権 | 飲酒運転・無免許の交通事故等。物損は含まれない |
| 4号 | 夫婦間の協力扶助義務・婚姻費用・養育費等の家族法上の請求権 | 滞納分も将来分も免責されない |
| 5号 | 雇用関係に基づく使用人の請求権(給料等)・預り金 | 個人事業主の破産で従業員の未払給料 |
| 6号 | 破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権 | ただし債権者が破産手続開始を知っていたときは免責される |
| 7号 | 罰金等の請求権 | 罰金・科料・刑事訴訟費用・過料 |
実務での主要3類型
1. 租税等(1号)
- 免責されないだけでなく、開始決定前の原因に基づく租税のうち一定範囲は財団債権(148条1項3号)として手続中も随時弁済の対象になる
- 受任時に滞納額を必ず確認し(納税証明・課税庁への照会)、課税庁との分納協議を破産手続と並行して設計する
- 滞納処分(給与差押え)は破産手続開始後の新たな着手は制限されるが、すでにされた滞納処分は続行される(43条2項)
2. 養育費(4号)
- 滞納養育費も将来の養育費も免責されない。破産手続中も婚姻費用・養育費の支払義務は続く
- 申立てにあたっては債権者一覧表(非免責債権欄)に記載する。元配偶者に破産を知られたくないという依頼者の希望には応じられない
- 家計収支表に養育費支出を計上し、支払の継続可能性を示すことは、生活再建の見通しとして免責判断にも好影響
3. 「悪意」の不法行為(2号)・生命身体侵害(3号)
- 2号の悪意は、単なる故意では足りず積極的な害意を要すると解されています。たとえば詐欺的商法の加害者の賠償債務が典型
- 3号は2号より広く「故意・重過失」で足りるが、対象は人の生命・身体の侵害に限られる(物損事故の賠償債務は通常の免責対象)
- 交通事故債務の相談では、事故態様(飲酒・無免許・著しい速度超過=重過失評価の方向)と人損/物損の区別で見通しを立てる
⚠️ 実務の落とし穴:保証協会の求償権、奨学金、リース残債などを「税金みたいに残るのでは」と誤解している依頼者、逆に養育費が消えると期待している依頼者——双方向の誤解が頻発します。非免責債権は253条1項各号に限定列挙であることを軸に説明します。
受任時の説明と方針設計
- 債務一覧から非免責債権を色分けし、「免責で消える債務/残る債務」を金額で示す
- 残る債務の処理方針(税:分納協議/養育費:減額調停の可能性/賠償:被害者との分割合意)を破産と並行して設計
- 非免責債権が債務の大半を占める場合、破産の費用対効果自体を再検討する(「全体像」トピック参照)
確認問題
【○×】破産者が免責許可決定を得た場合、滞納していた住民税の支払義務も免れる。
答え:× 租税等の請求権は非免責債権です(253条1項1号)。課税庁との分納協議等の対応が別途必要です。
【○×】交通事故(過失による物損)の損害賠償債務は、免責許可決定の確定により責任を免れる。
答え:○ 3号は故意・重過失による「人の生命又は身体を害する不法行為」に限られ、過失による物損の賠償債務は通常の免責対象です(2号の「悪意」にもあたりません)。
【事例】依頼者の債務:消費者金融300万円、滞納養育費120万円、滞納市県民税80万円。免責後に残る債務と、その処理方針を説明せよ。
解答例 免責により消費者金融300万円は責任を免れるが、養育費120万円(253条1項4号)と市県民税80万円(同1号)の計200万円は残る。処理方針として、税は課税庁との分納協議を受任後早期に開始し、養育費は滞納分の分割協議に加え、現在の収入で将来分の額が過大であれば養育費減額調停の申立てを検討する(事情変更があれば将来分の減額は可能)。破産によって解放されるのは債務の6割であることを金額ベースで明示し、納得を得てから受任するべき事案である。