このページで学ぶこと
- 申立書一式の構成と、各書面の機能を学びます
- 陳述書(経緯報告書)の起案方針——「負債増大の経緯」をどう書くか——を学びます
- ゴール:裁判所・管財人が追加調査せずに全体像を把握できる申立書を起案できるようになる
端的にいうと:良い申立書とは「読んだだけで事件の処理方針(同廃か管財か、免責上の問題の有無)が決まる」書面です。曖昧さや空白は、補正指示・審尋・管財人調査として全部返ってきます。
申立書一式の構成
自然人の自己破産では、破産手続開始申立てと免責許可申立てを同時に行うのが通常です(なお、破産手続開始の申立てをした場合、原則として免責許可の申立てをしたものとみなされます——248条4項)。
| 書面 | 機能 |
|---|---|
| 申立書本体 | 当事者・申立ての趣旨・破産手続開始原因(支払不能・15条) |
| 債権者一覧表 | 全債権者の表示。免責手続の通知の基礎になる |
| 財産目録 | 資産の全部開示(前トピック参照) |
| 陳述書(報告書) | 経歴・家族・負債増大の経緯・免責不許可事由に関する事情 |
| 家計収支表 | 直近2か月の世帯収支 |
| 添付資料 | 住民票、給与明細、通帳写し、各種証明書等 |
債権者一覧表の作成
- 全債権者を記載する。漏れた債権者には免責の効力に関わる問題が生じうるうえ(253条1項6号参照——破産者が知りながら名簿に記載しなかった請求権は非免責)、虚偽の名簿提出は免責不許可事由(252条1項8号)
- 記載事項:債権者名・住所・債権額・発生原因・発生時期・保証人の有無・別除権(担保)の有無
- 債権調査票・取引履歴と突合した正確な債権額(引き直し後)を記載
- 保証債務は現実化していなくても(主債務者が弁済中でも)記載する
- 税金・養育費等の非免責債権も記載する(免責されないからこそ、正確な把握が必要)
陳述書(経緯報告書)の起案
構成
- 経歴(学歴・職歴・収入の推移)
- 家族構成・住居の状況
- 負債増大の経緯——時系列で「いつ・なぜ・いくら借り、何に使ったか」
- 支払不能に至った事情
- 免責不許可事由に関連する事情(該当がある場合の経緯と反省・現状)
- 生活状況の改善(家計の建て直し、ギャンブル等からの離脱の裏付け)
起案方針 — 「正直に、ただし構造的に」
負債増大の経緯は、依頼者の聴取メモの転記ではなく、借入れの時系列と使途を通帳・取引履歴と整合させた再構成であるべきです。
- 借入時期と債務額の推移を客観資料と一致させる(矛盾は虚偽陳述の疑いを招く)
- 免責不許可事由にあたりうる事実(ギャンブル・浪費・換金行為)は、隠さず記載したうえで、期間・金額を特定し、現在の改善状況(家計管理・治療・GA等への参加)まで書く——裁量免責(252条2項)の判断資料を自ら提供する趣旨
- 抽象的な反省文は不要。裁判所が見るのは事実の特定と再発防止の具体性
⚠️ 実務の落とし穴:依頼者の記憶だけで書いた陳述書が、後から取り寄せた取引履歴と食い違う事故が定期的に起きます。客観資料が揃ってから陳述書を固めるのが正しい順序です。
申立先・管轄
- 管轄は債務者の普通裁判籍所在地(住所地)の地方裁判所(5条1項)
- 営業者については営業所所在地にも管轄があり、また法人と代表者の同時申立てでは相互の管轄を利用できる(5条3項以下の関連管轄)
📋 実務チェックリスト(申立書起案)
- 債権者一覧表と債権調査票・引き直し計算の突合
- 保証人の有無欄の記入漏れ確認
- 陳述書の時系列と通帳・取引履歴の整合確認
- 免責不許可事由関連の事実の特定(期間・金額・頻度)と改善状況の記載
- 財産目録・家計収支表・陳述書の相互整合(三点突合)
- 住民票(世帯全員・続柄入り)等の有効期限
- 予納金・予納郵券の準備(同廃/管財で異なる)
- 依頼者による最終確認と署名(内容を本人が説明できるか)
確認問題
【○×】破産手続開始の申立てをした自然人は、別途免責許可の申立てをしない限り、免責手続は開始されない。
答え:× 破産手続開始の申立てがあった場合、反対の意思表示がない限り、免責許可の申立てをしたものとみなされます(248条4項)。実務でも同時申立てとして処理されます。
【○×】破産者が、その存在を知りながら債権者名簿に記載しなかった債権は、免責許可決定が確定しても免責されない。
答え:○ 253条1項6号(ただし債権者が破産手続開始を知っていた場合を除く)。名簿の網羅性は依頼者の利益そのものです。
【事例】陳述書の起案にあたり、依頼者が「パチンコに使ったことは書きたくない。生活費と書いてほしい」と求めてきた。どう対応するか。
解答例 応じてはならない。虚偽の陳述は免責不許可事由(252条1項8号・11号参照)に該当しうるうえ、通帳の出金状況等から発覚する可能性が高く、発覚した場合の免責への悪影響は自己申告の場合と比較にならない。むしろ、浪費・賭博(同4号)は裁量免責(252条2項)により免責される運用が確立しており、期間・金額を特定して正直に記載し、現在の改善状況を具体的に示すことが免責への最短経路であることを説明して説得する。説得に応じず虚偽記載に固執する場合は、辞任を検討すべき場面である。