このページで学ぶこと
- 財産目録に計上すべき財産の範囲と評価基準(東京地裁運用ベース)を学びます
- 添付資料(裏付け資料)の収集と、調査が不十分な場合のリスクを学びます
- ゴール:管財人の調査に耐える財産目録・家計収支表を作成できるようになる
端的にいうと:財産調査の基準は「依頼者が財産だと思っているか」ではなく「管財人が調べたら出てくるか」です。後から出てくるくらいなら、最初から全部書く——これに尽きます。
財産調査の範囲と評価
主要財産の調査ポイント
| 財産 | 調査方法・裏付け資料 | 評価・実務上の注意 |
|---|---|---|
| 現金 | 申立直前の残高を陳述 | 東京地裁運用では33万円以上で原則管財 |
| 預貯金 | 全口座の通帳記帳・取引明細(1〜2年分) | 残高だけでなく入出金履歴の精査が本丸(後述) |
| 保険 | 解約返戻金見込額証明書 | 掛捨てでも証明書を取得して「返戻金なし」を疎明。契約者貸付は控除 |
| 自動車 | 車検証・査定書(または年式による無価値疎明) | 初度登録から相当年数(普通車7年等の運用)で無価値扱い。所有権留保があれば別除権の処理 |
| 退職金 | 見込額証明書(就業規則+計算書で代替可) | 支給見込額の8分の1を計上する運用 |
| 不動産 | 登記事項証明書・固定資産評価証明書・査定書 | オーバーローン(残債が価値の1.5倍以上等の運用)なら無価値の疎明 |
| 過払金 | 引き直し計算書 | 回収済み・未回収を区別して計上 |
| 貸付金・売掛金 | 契約書・請求書 | 回収可能性も付記 |
通帳の精査 — 申立準備の核心
直近1〜2年分の入出金履歴は、裁判所・管財人が必ず見る資料です。代理人は提出前に自ら精査し、説明を要する取引に先回りして注釈を付けます。
- 大きな入金:借入れか、贈与か、財産の換価代金か → 使途の説明を準備
- 大きな出金:偏頗弁済・財産処分・浪費の痕跡 → 否認対象・免責不許可事由のスクリーニング
- 定期的な出金:保険料(未申告の保険契約の発見)、積立て、送金(隠匿口座の発見)
- 解約済み口座・残高ゼロの口座も、直近に使用歴があれば履歴を取得
⚠️ 実務の落とし穴:依頼者の「使っていない口座」「家族名義だが実質自分の口座」の申告漏れは頻発します。管財人は金融機関への調査で容易に発見するため、発見のされ方(自己申告か、調査による発覚か)が免責判断の心証を分けます。
家計収支表(家計全体の状況)
申立て直前2か月分の家計収支表の提出を求める運用が一般的です。
- 世帯全体で作成(同居人の収入・支出を含む)
- 収入(給与・年金・児童手当等)と支出(住居費・食費・水道光熱費・通信費・保険料・教育費等)が預金通帳の動きと整合していること
- 収支が大幅な黒字なのに積立てができていない、支出に計上のない引き落としがある——といった不整合は、裁判所からの補正指示や管財人の調査事項になる
家計収支表は単なる添付書類ではなく、積立による申立費用の確保と免責後の生活再建の設計図を兼ねます。受任時から毎月作成させ、提出前に代理人が通帳と突合します。
📋 実務チェックリスト(財産調査)
- 全預貯金口座の通帳記帳/取引明細(直近1〜2年・解約口座含む)
- 入出金履歴の精査と要説明取引の注釈作成
- 保険:全契約の解約返戻金見込額証明書(掛捨て含む)
- 自動車:車検証+査定書(または年式疎明)、ローンの所有権留保確認
- 退職金見込額証明書(取得困難なら就業規則+給与明細で計算)
- 不動産:登記事項証明書・評価証明書・(オーバーローン疎明用)残高証明書と査定書
- 過去2年内の財産処分の契約書・代金の使途
- 家計収支表2か月分と通帳の突合
- 給与明細(直近2〜3か月)・源泉徴収票(直近2年)・課税証明書
確認問題
【○×】掛捨て型の保険契約は解約返戻金がないため、財産目録への記載や資料の添付は不要である。
答え:× 契約の存在自体は開示し、解約返戻金見込額証明書等で「返戻金がない」ことを疎明するのが運用です。保険契約の申告漏れは隠匿を疑わせる事情になります。
【○×】退職金は現実に退職するまで受領できないから、財産目録に計上する必要はない。
答え:× 退職金債権は将来の請求権として破産財団を構成しうるため、支給見込額の8分の1相当額を財産として計上する運用が確立しています(4分の3は差押禁止〔民事執行法152条2項〕であることと、現実の退職の不確実性を考慮した割合)。
【事例】通帳の精査で、申立ての3か月前に依頼者が兄に50万円を送金していたことが判明した。どう対応すべきか。
解答例 送金の性質を確認する。①兄への借入金の返済であれば、支払不能後の偏頗弁済として否認対象(162条1項——内部者なので悪意推定)となりうる事実であり、②贈与であれば無償否認(160条3項)の対象となりうる。いずれにせよ隠すことはできず、申立書の報告事項(直近の弁済・財産処分)として自発的に開示し、管財事件となること、管財人が兄から回収する可能性があることを依頼者に事前に説明しておく。自己申告と説明準備の有無が免責判断の心証を大きく左右する。