このページで学ぶこと
- 行為能力を制限される4つの類型と、それぞれの保護者・取消しの範囲を学びます
- 取引の相手方を保護する制度(催告権・詐術による取消権の排除)を学びます
- ゴール:4類型の異同を表で再現でき、21条(詐術)の処理ができるようになる
制度の趣旨
意思能力の有無は行為の時点ごとに個別に判断されるため、立証が困難であり、相手方にとっても予測がつきません。 そこで民法は、判断能力が不十分な者を定型的な類型として定め、その類型に該当すれば(個別の意思能力の立証なしに)法律行為を取り消せることにしました。これが制限行為能力者制度です。
💡 かみくだくと:「あの契約のとき判断力がなかった」といちいち証明するのは大変なので、「未成年者」「後見開始の審判を受けた人」のような分かりやすい枠を作り、枠に入っていれば一律に保護する仕組みです。定型化によって、表意者の保護と取引の安全(相手方の予測可能性)を両立させています。
解説
4つの類型
| 類型 | 要件 | 保護者 | 取り消せる行為 |
|---|---|---|---|
| 未成年者 | 18歳未満(4条) | 法定代理人(親権者等) | 同意なくした法律行為(5条2項)。ただし例外あり |
| 成年被後見人 | 事理弁識能力を欠く常況+後見開始の審判(7条) | 成年後見人 | 日用品の購入その他日常生活に関する行為以外(9条) |
| 被保佐人 | 事理弁識能力が著しく不十分+保佐開始の審判(11条) | 保佐人 | 13条1項所定の重要な財産行為を同意なくしたとき |
| 被補助人 | 事理弁識能力が不十分+補助開始の審判(15条) | 補助人 | 審判で定めた特定の行為を同意なくしたとき(17条) |
効果:上表の「取り消せる行為」に該当すると、本人または保護者等(120条1項)はその行為を取り消すことができます。取消しにより行為は遡及的に無効となり(121条)、制限行為能力者の返還義務は現存利益に縮減されます(121条の2第3項)。逆にいえば、取り消されるまでは有効であり、追認(122条)により確定的に有効にもなります。
未成年者の例外 — 取り消せない3場面
未成年者でも、次の行為は単独で確定的に有効にできます。
- 単に権利を得、又は義務を免れる行為(5条1項ただし書)——負担のない贈与を受ける等
- 処分を許された財産の処分(5条3項)——小遣いの範囲の買い物
- 許可された営業に関する行為(6条1項)——営業を許された未成年者はその営業については成年者と同一の行為能力をもつ
成年被後見人の特殊性
成年被後見人は事理弁識能力を「欠く常況」にあるため、保護者の同意を得てした行為であっても取り消せます。同意どおりに行為できる保証がないからです。成年後見人には同意権ではなく代理権が与えられます(859条)。 他方、日用品の購入その他日常生活に関する行為は取り消せません(9条ただし書)。本人の自己決定の尊重とノーマライゼーションの理念に基づく例外です。
相手方の保護
制限行為能力者と取引した相手方は、取り消されるか否かが確定しない不安定な立場に置かれます。民法は2つの保護手段を用意しました。
① 催告権(20条) 相手方は1か月以上の期間を定めて「追認するかどうか確答せよ」と催告できます。確答がない場合の効果は、催告の相手によって異なります。
- 単独で追認できる者(能力回復後の本人・法定代理人等)に催告 → 確答なければ追認とみなす
- 被保佐人・被補助人本人に催告(保佐人等の追認を得るよう求めた場合) → 確答なければ取消しとみなす
💡 かみくだくと:「自分ひとりで追認を決められる人」が黙っていたら追認扱い、「ひとりでは決められない人」が黙っていたら取消し扱い、と覚えると整理しやすいです。
② 詐術による取消権の排除(21条)
民法21条 制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができない。
年齢を偽る等の詐術を用いた制限行為能力者は、もはや保護に値しません。 判例(最判昭和44年2月13日)は、単なる黙秘は詐術にあたらないが、黙秘が他の言動と相まって相手方の誤信を強めた場合には詐術にあたりうるとしています。
具体例
例1 17歳のAが、親権者に無断でバイクのローン契約を締結した。 → 5条2項により取消し可能。取り消すと契約は遡って無効となり、Aは受け取ったバイクを返還するが、制限行為能力者の返還義務は現に利益を受けている限度(現存利益)に縮減される(121条の2第3項)。
例2 被保佐人Bが、保佐人の同意を得ずに自己所有の土地を売却した。 → 不動産の処分は13条1項所定の行為(3号)であり、取消し可能。
よくある勘違い
- ❌「成年被後見人も後見人の同意があれば有効に行為できる」→ 同意があっても取り消せます。成年後見人の権限は同意権ではなく代理権です。
- ❌「未成年者の行為はすべて取り消せる」→ 単に権利を得る行為・処分を許された財産・許可営業の3例外があります。
- ❌「年齢を黙っていただけでも詐術になる」→ 判例上、単なる黙秘は詐術にあたらないのが原則です。
確認問題
【○×】成年被後見人が成年後見人の同意を得てした土地の売買契約は、取り消すことができない。
答え:× 成年被後見人は同意を得ても同意どおりに行為できるとは限らないため、同意の有無にかかわらず取り消せます(9条本文)。
【○×】成年被後見人がした日用品の購入は、取り消すことができない。
答え:○ 9条ただし書。自己決定の尊重の理念に基づく例外です。
【○×】制限行為能力者が単に制限行為能力者であることを黙秘して契約した場合、常に21条の詐術にあたり取消権を失う。
答え:× 判例は単なる黙秘は詐術にあたらないとします。他の言動と相まって誤信を強めた場合にはじめて詐術となりえます(最判昭和44年2月13日)。
【短答式】未成年者が法定代理人の同意なく締結した売買契約を取り消した場合、未成年者が負う返還義務の範囲について、条文を挙げて説明せよ。
解答例 取消しにより契約は遡及的に無効となり(121条)、当事者は原状回復義務を負う(121条の2第1項)のが原則である。しかし制限行為能力者は、その行為によって現に利益を受けている限度で返還すれば足りる(121条の2第3項)。浪費した分は返還を要しないが、生活費に充てた分は出費を免れた利益が現存するとして返還を要すると解されている。