基礎編

権利能力・意思能力

このページで学ぶこと

制度の趣旨

法律関係は「誰が」権利をもち義務を負うかを確定することから始まります。 民法は、すべての自然人に出生と同時に平等な権利能力を認めました(3条1項)。身分や性別によって権利の主体性に差を設けない、近代私法の大原則(権利能力平等の原則)の表れです。

他方、権利能力があっても、自己の行為の意味を判断できない者のした法律行為に拘束力を認めることは、私的自治の前提を欠きます。そこで意思能力を欠く者の法律行為は無効とされます(3条の2)。

解説

権利能力(3条)

民法3条1項 私権の享有は、出生に始まる。

自然人は出生により権利能力を取得し、死亡によってのみ喪失します。

💡 かみくだくと:生まれた瞬間の赤ちゃんでも土地の所有者や相続人になれる、ということです。「何かをする能力」ではなく「権利の持ち主になれる資格」なので、判断力は関係ありません。

胎児の権利能力 — 3つの例外

出生前の胎児には原則として権利能力がありませんが、民法は3つの場面で「既に生まれたものとみなす」例外を定めています。

場面条文
不法行為に基づく損害賠償請求721条
相続886条
遺贈965条

たとえば父が交通事故で死亡した場合、胎児も損害賠償請求権を取得し、相続人となります。 なお、判例(大判昭和7年10月6日・阪神電鉄事件)は、胎児の間は権利能力がなく、生きて生まれたときに遡って権利能力を取得すると扱う立場(停止条件説)と理解されています。したがって胎児の間に母が代理して和解することはできません。

意思能力(3条の2)

民法3条の2 法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。

意思能力とは、自己の行為の法的な結果を認識・判断できる精神能力をいい、おおむね7〜10歳程度の判断力が目安とされます。 泥酔者や重度の認知症の方がした契約は、この規定により無効です。

この条文は2020年施行の改正で新設されました。それ以前から判例・学説上当然と解されてきた法理の明文化です。

権利能力・意思能力・行為能力の区別

概念内容欠く場合の効果
権利能力権利義務の主体となる資格(すべての自然人が有する)
意思能力行為の意味を判断する能力法律行為は無効
行為能力単独で確定的に有効な法律行為をする資格取消し可能(次トピック)

💡 かみくだくと:①権利の持ち主になれるか(権利能力)、②その瞬間に判断力があったか(意思能力)、③法が定型的に保護する類型(未成年者など)に入るか(行為能力)、という3段階のチェックポイントです。

具体例

例1 重度の認知症で家族の顔も分からない状態のAが、訪問販売員に勧められるまま高額な布団を購入する契約書に署名した。 → 契約時に意思能力を欠いていたと認められれば、契約は無効(3条の2)。Aの側から無効を主張して代金の返還を求めることができる。

例2 Bが交通事故で死亡した時点で、妻Cは妊娠していた。 → 胎児は相続については既に生まれたものとみなされ(886条)、生きて生まれれば、Bの死亡時に遡って相続人となる。

よくある勘違い

確認問題

【○×】自然人は出生によって権利能力を取得し、死亡によって失う。

答え:○ 3条1項。権利能力の得喪事由は出生と死亡のみです。

【○×】意思能力を有しない者がした法律行為は、取り消すことができる。

答え:× 無効です(3条の2)。取消しではありません。

【○×】胎児は、遺贈を受けることについては既に生まれたものとみなされる。

答え:○ 965条。不法行為(721条)・相続(886条)と並ぶ3つの例外の1つです。

【短答式】判例の立場(停止条件説)によると、胎児の間に母が胎児を代理して損害賠償について和解することはできるか。理由とともに答えよ。

解答例 できない。判例は、胎児の間は権利能力がなく、生きて生まれたときに遡って権利能力を取得すると解する(停止条件説)。胎児の間は権利能力がない以上、これを代理する余地もないからである。

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