このページで学ぶこと
- 無権代理行為の効力(本人への効果不帰属と追認の可能性)を学びます
- 相手方の保護手段(催告権・取消権・117条責任)を学びます
- ゴール:無権代理をめぐる本人・相手方・無権代理人の三者の法律関係を図式的に整理できるようになる
制度の趣旨
民法113条1項 代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない。
代理権がないのに代理人と称してされた行為(無権代理)の効果を本人に帰属させることは、本人の私的自治に対する不当な介入となるため、許されません。 他方で、本人にとって有利な行為であれば効果を引き受ける自由(追認)を認めてよく、また、無権代理人を信頼した相手方の保護も図る必要があります。113条以下は、この三者の利害を調整する制度群です。
💡 かみくだくと:無権代理行為は「無効」ではなく効果不帰属(宙ぶらりん)の状態です。本人が追認すればセーフ、追認拒絶すれば確定アウト。その間、相手方には不安定な地位を解消する手段が与えられます。
解説
本人の権利 — 追認・追認拒絶
- 追認(113条):本人が追認すると、契約の時に遡って効果が本人に帰属します(116条本文)。ただし第三者の権利を害することはできません(同条ただし書)
- 追認拒絶:本人が追認を拒絶すると、効果不帰属が確定します。以後、本人は翻意して追認することはできません
- 追認・追認拒絶は相手方に対する意思表示で行うのが原則です。無権代理人に対してした場合、相手方が知るまでは相手方に対抗できません(113条2項)
相手方の保護 — 3つの手段
| 手段 | 条文 | 要件(相手方の主観) |
|---|---|---|
| 催告権 | 114条 | 善意・悪意を問わない |
| 取消権 | 115条 | 善意に限る |
| 無権代理人の責任追及 | 117条 | 善意かつ無過失(例外あり) |
① 催告権(114条):相手方は相当の期間を定めて本人に追認するか否か催告でき、期間内に確答がなければ追認拒絶とみなされます。 (制限行為能力者の催告(20条)では単独追認権者の沈黙が「追認擬制」だったのと逆である点に注意。本人は無権代理に何ら関与していないため、沈黙により不利益を受けない方向に振られています。)
② 取消権(115条):善意の相手方は、本人が追認しない間、契約を取り消して法律関係から離脱できます。
③ 無権代理人の責任(117条)
民法117条1項 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。
要件
- 他人の代理人として契約をしたこと
- 自己の代理権を証明できないこと
- 本人の追認が得られないこと
- 117条2項の免責事由(後述)がないこと
効果:相手方は無権代理人に対し、履行または損害賠償を選択して請求できます。この責任は無権代理人の故意・過失を要しない無過失責任であり、損害賠償の範囲は履行利益(契約が履行されたら得られた利益)に及ぶと解されています。
責任が否定される場合(117条2項):
- 相手方が無権代理につき悪意(1号)
- 相手方が有過失(2号本文)。ただし無権代理人が自己に代理権がないことを知っていたときは、有過失の相手方も請求可(2号ただし書)
- 無権代理人が制限行為能力者(3号)
無権代理と相続(論述頻出・概観)
無権代理人が本人を相続した場合や、本人が無権代理人を相続した場合の処理は、論述試験の定番論点です。基礎編では結論の骨子のみ示し、詳細は応用編で扱います。
- 無権代理人が本人を単独相続 → 追認拒絶は信義則上許されず、当然に有効となる(判例)
- 本人が無権代理人を相続 → 本人の地位に基づく追認拒絶は信義則に反しない(ただし117条責任は承継)
具体例
例1 Bは代理権がないのに「A代理人」と称してA所有の甲土地をCに売却した。 → 効果はAに帰属しない(113条1項)。Aが追認すれば契約時に遡って有効。Cは、Aが追認しない間、善意であれば取り消せる(115条)し、相当期間を定めて催告し、確答がなければ追認拒絶とみなされる(114条)。
例2 上記でAが追認を拒絶した。Cは契約時、Bに代理権がないことを知らず、知らないことに過失もなかった。 → Cは117条1項により、Bに対して履行(甲土地の引渡し等が可能な場合)または履行利益の損害賠償を選択して請求できる。
よくある勘違い
- ❌「無権代理行為は無効」→ 正確には本人への効果不帰属です。追認により有効となる余地がある点で、確定的な無効と異なります。
- ❌「催告権は善意の相手方だけ」→ 催告権(114条)は悪意の相手方も行使できます。善意が要求されるのは取消権(115条)です。
- ❌「117条の損害賠償は信頼利益にとどまる」→ 通説・判例は履行利益の賠償まで認めます。117条は法定の無過失責任であり、相手方保護が厚いのが特徴です。
確認問題
【○×】無権代理行為の相手方は、無権代理であることを知っていた場合でも、本人に対して催告することができる。
答え:○ 催告権(114条)に相手方の善意は要求されません。取消権(115条)との違いです。
【○×】本人が追認も追認拒絶もしないまま相当期間が経過し、相手方の催告に確答しなかった場合、追認したものとみなされる。
答え:× 追認を拒絶したものとみなされます(114条)。制限行為能力の催告(20条・単独追認権者は追認擬制)と混同しないよう注意。
【○×】117条1項に基づく無権代理人の責任は、無権代理人に過失がなければ生じない。
答え:× 117条の責任は無過失責任です(最判昭和62年7月7日参照)。代理権の証明も本人の追認もない以上、過失の有無を問わず責任を負います。
【短答式】無権代理行為の本人による追認の効果について、条文を挙げて説明せよ。
解答例 追認があると、別段の意思表示がない限り、契約の時に遡って本人に効果が帰属する(116条本文)。ただし、この遡及効によって第三者の権利を害することはできない(同条ただし書)。