このページで学ぶこと
- 条件(成否不確実な事実)と期限(到来確実な事実)の区別を学びます
- 停止条件・解除条件、条件成就の妨害(130条)、期限の利益(136条・137条)を学びます
- ゴール:「合格したら時計をあげる」「来月末に支払う」等の約定を条文に即して分析できるようになる
制度の趣旨
法律行為の効力を、成立と同時にではなく、将来の事実にかからせたいというニーズは広く存在します(「試験に受かったら」「父が死んだら」「来年4月1日から」)。 民法は、その将来の事実が発生するかどうか不確実なものを条件、発生が確実なものを期限と呼び、それぞれの法律関係を規律しています(127条以下)。
解説
条件 — 停止条件と解除条件(127条)
民法127条 1項 停止条件付法律行為は、停止条件が成就した時からその効力を生ずる。 2項 解除条件付法律行為は、解除条件が成就した時からその効力を失う。
- 停止条件:成就するまで効力の発生が止まっている(「合格したらこの時計を贈与する」)
- 解除条件:成就すると効力が消滅する(「この奨学金は留年したら打ち切る」)
💡 かみくだくと:「〜したら効果スタート」が停止条件、「〜したら効果ストップ」が解除条件です。どちらか迷ったら、条件成就の瞬間に効力が生まれるのか消えるのかを考えます。
条件付権利の保護
条件の成否未定の間も、当事者の期待は法的保護に値します。
- 各当事者は、条件の成否未定の間、相手方の期待権を害してはならず(128条)、条件付権利は処分・相続・保存・担保の対象になります(129条)
条件成就の妨害・不正な成就(130条)
民法130条 1項 条件が成就することによって不利益を受ける当事者が故意にその条件の成就を妨げたときは、相手方は、その条件が成就したものとみなすことができる。 2項 条件が成就することによって利益を受ける当事者が不正にその条件を成就させたときは、相手方は、その条件が成就しなかったものとみなすことができる。
仲介手数料の支払を免れるため故意に直接契約を結んだ事案などで1項が機能します(最判昭和45年10月22日参照)。2項は改正による新設で、報奨金目当てに不正に条件を成就させる場面に対応します。
特殊な条件
| 類型 | 効果 |
|---|---|
| 既成条件(すでに成否確定) | 成就確定+停止条件 → 無条件/不成就確定+停止条件 → 無効(131条) |
| 不法条件(不法な行為を条件とする) | 法律行為自体が無効。不法行為をしないことを条件とする場合も無効(132条) |
| 不能条件 | 停止条件なら無効、解除条件なら無条件(133条) |
| 純粋随意条件(債務者の意思のみにかかる停止条件) | 無効(134条)。「気が向いたら払う」に拘束力はない |
期限 — 確定期限と不確定期限
- 確定期限:到来時期が確定(「4月1日に支払う」)
- 不確定期限:到来は確実だが時期が不確定(「私が死んだら」)
💡 かみくだくと:「出世したら返す」という約束(出世払い)は、判例上、出世が確実でない以上不確定期限と解されています(大判大正4年3月24日)。出世しないことが確定した時にも弁済期が到来する=「条件」ではなく「期限」と性質決定することで、債務者が永久に支払を免れる事態を防いでいます。
期限の利益(136条・137条)
民法136条1項 期限は、債務者の利益のために定めたものと推定する。
期限の利益(期限まで履行しなくてよい利益)は債務者のためと推定され、債務者は放棄できます(136条2項本文)。 他方、次の場合には債務者は期限の利益を喪失し、債権者は直ちに全額を請求できます(137条)。
- 債務者が破産手続開始の決定を受けたとき
- 債務者が担保を滅失・損傷・減少させたとき
- 債務者が担保を供する義務を負いながら供しないとき
実務の金銭消費貸借契約には、これを拡張する期限の利益喪失条項(分割金の支払を1回でも怠ったら全額を直ちに支払う等)が必ず置かれています。
具体例
例1 AはBに「司法試験に合格したらこの腕時計を贈与する」と約束した。 → 停止条件付贈与契約。合格(条件成就)の時から贈与の効力が生じる(127条1項)。合格前にAが時計を故意に壊せば、Bは期待権侵害(128条)として損害賠償を請求しうる。
例2 CはDから100万円を借り、弁済期を1年後と定めた。半年後、Cは期限の利益を放棄して全額を弁済した。 → 期限の利益は債務者Cのためと推定され(136条1項)、放棄できる(同条2項)。ただし利息付であれば、期限までの利息を付して相手方の利益を害さないようにする必要がある(同項ただし書の趣旨)。
よくある勘違い
- ❌「『出世払い』は条件だから、出世しなければ永久に返さなくてよい」→ 判例は不確定期限と解します。出世しないことが確定した時点で弁済期が到来します。
- ❌「不法条件付きの法律行為は条件部分だけが無効」→ 法律行為全体が無効です(132条)。
- ❌「期限の利益は債権者のもの」→ 債務者の利益と推定されます(136条1項)。
確認問題
【○×】停止条件付法律行為は、条件成就の時から効力を生じる。
答え:○ 127条1項。なお当事者の意思表示により成就の効果を成立時に遡らせることもできます(同条3項)。
【○×】条件の成就によって不利益を受ける当事者が故意に条件成就を妨げた場合、条件は成就しなかったものと扱われる。
答え:× 相手方は条件が成就したものとみなすことができます(130条1項)。
【○×】債務者が破産手続開始の決定を受けたときは、期限の利益を主張することができない。
答え:○ 137条1号です。
【短答式】条件と期限の区別の基準を述べ、「出世払い」の約定がいずれにあたるかを判例の立場で説明せよ。
解答例 将来の事実の発生が不確実なものが条件、発生が確実なものが期限である。「出世払い」について判例は、出世した時または出世しないことが確定した時のいずれかは必ず到来することから、不確定期限と解する。したがって出世の見込みがなくなった時点で弁済期が到来し、債務者は支払義務を免れない。